アイ・クオリアは、人が音を聴く体験により得るリアリティとは何かについて考え、メディアを通してその表現を追及します。

 空気を媒質として伝わる振動が音として知覚されたとき、それは聴き手にとって確かな実在です。言葉も自然音も音楽も、それぞれの特質により聴くものにさまざまな情報を伝え情感をもたらしますが、次の瞬間、音そのものは聴き手の傍らを過ぎ去り、拡散し消えてゆきます。音の存在はいつも一回性のものであり、音を発することも聴くことも、本来はすべてが一期の出来事というよりありません。

 音が確かにここにあったとき、自分が聴き取ったものをそのまま記録にとどめたい−そのような思いが録音という技術を生み出しました。それは空気の揺らぎをそのまま機械的に蝋管に刻むという素朴な方法に始まり、電気技術の応用による広い音域とダイナミックレンジの獲得、ステレオフォニックの発明、デジタル技術によるさらなる解像度の深化…というように発展を続けてきました。この発展が結実したひとつの記念碑が1982年に発表された光学デジタルメディア・CDです。これは人間が耳で聴き取ることができる全音域をカバーし、かつてない広さのダイナミックレンジと、クロストークのないステレオサウンドを提供する優れたものでした。

 その後も技術の発展は留まるところありません。しかし、CDが発表されて四半世紀を経過し、さらに精緻なデジタル音響を処理できるシステムが普及する時代を迎えた今、改めて「音のリアリティとは何か」「何が聴き手の中にリアルな情感をもたらすのか」が意味深く問われています。そして、その「何か」を問うときに思い出すべきことは、身近で発せられた音の放射を体に浴びた原体験であり、音を浴びる体験を通して感受した音の質感の記憶です。アイ・クオリアは、音により得られるリアリティ・音のクオリア(質感・感覚質)を伝えるとはどういうことか追求し、その方法を実践することを使命と考えています。